ショコラティエの箱を開けるとよく目にする「ジャンドゥーヤ」と「プラリネ」ですが、その違いを正確に説明できる人は意外と少ないかもしれません。
一見似ているようで、その背景には、フランスとイタリアが育んできた歴史や美意識、そして少しだけ譲れないプライドが隠されています。
今回は、紅茶の国から少し冷ややかに、けれど愛を込めた視点で、このふたつの美しいナッツ菓子の違いと物語を紐解いてみましょう。
まずはジャンドゥーヤとプラリネの違いを簡単に比較
「結局どう違うの?」という方のために、まずは簡単に整理してみましょう。
| 項目 | ジャンドゥーヤ | プラリネ |
| 発祥 | イタリア・トリノ | フランス |
| 主な材料 | ヘーゼルナッツ、チョコレート | ナッツ、砂糖 |
| 作り方 | ナッツを極細ペーストにしてチョコと混ぜる | ナッツをキャラメリゼして砕く・ペースト化する |
| 食感 | なめらかで口どけがよい | やや粒感があり香ばしい |
| よく使われる例 | 板チョコ、スプレッド、フィリング | ボンボンショコラ、ケーキ、アイス |
簡単にいえば、ジャンドゥーヤは「チョコレートにヘーゼルナッツを溶け込ませたもの」、プラリネは「キャラメリゼしたナッツの香ばしさを楽しむもの」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
イタリアの困窮が生んだジャンドゥーヤ──物不足ですら美味しいものに変えてしまう

19世紀初頭、ナポレオン政権下の禁輸措置により、イタリア・トリノのショコラティエたちは深刻なカカオ不足に直面しました。
そこで彼らが目を向けたのが、地元ピエモンテ産の潤沢なヘーゼルナッツです。
限られたカカオを補うために、ナッツを極限まで滑らかなペーストにして練り込んだのが、ジャンドゥーヤの始まりです。
驚くべきは、そのテクスチャーです。口に含んだ瞬間、体温でゆっくりとほどけていくなめらかさは、物不足の時代に生まれた代用品というには、あまりに見事な出来栄えです。
「イタリア人は困っていても結局おいしいものを作ってしまう」と英国の食文化コラムで読んだことがあります。 ジャンドゥーヤも、そんな言葉が似合うお菓子なのかもしれません。
プラリネ──フランス人はキャラメリゼしたナッツにまで貴族の物語を添えてしまう

一方、プラリネの誕生はさらに古く、17世紀のフランスに遡ります。プラズラン公爵に仕えた料理人が考案した糖衣アーモンドが、その原型とされています。
ジャンドゥーヤが「なめらかに溶けていくチョコレート」なら、プラリネは「ナッツの香ばしさを主役にしたお菓子」と言えるかもしれません。
ローストしたナッツをキャラメリゼして砕き、時にはペースト状にする。そのため、口どけだけではなく、香ばしさやわずかな粒感を楽しめるのが特徴です。
噛むたびに弾ける香ばしさとキャラメルの苦味は、紅茶のタンニン(渋み)とも心地よいマリアージュを見せてくれます。キャラメリゼしたナッツにまで貴族的な名前を与えてしまうところは、いかにもフランスらしい遊び心なのかもしれません。
フランス発祥 vs イタリア発祥 の終わらぬ論争

ここまで読まれた方は、少し不思議な「ねじれ」に気づかれたかもしれません。
プラリネの起源は確かにフランスにあります。
しかし、イタリアで誕生したジャンドゥーヤは、「ナッツを極上のペーストに仕立てる」という新たな魅力を生み出しました。
フランス側もその後、プラリネにチョコレートを加えたものや、ナッツの種類を変えたものなど、さまざまなバリエーションを生み出してきました。
そのため、現在私たちが思い浮かべる「濃厚でなめらかなナッツペースト」のイメージに近いのは、果たしてどちらなのでしょうか。
お菓子好きの間では、ときどきそんな話題になることもあるようです。
フランスは「名前と歴史」を持ち、イタリアは「滑らかな口どけ」を育てた。
だからこそ、
「プラリネはフランス生まれ」
「いや、現在親しまれているプラリネペーストに近い感覚はイタリアにもある」
といった話題になることもあるのだとか。こうした終わりのない論争もまた、少し渋みのある紅茶をもう一杯飲むための、悪くない甘味なのかもしれません。
イギリスでは「ジャンドゥーヤ」という名前を意識する機会は意外と少ない?

日本では近年、「ジャンドゥーヤ」という言葉そのものが高級感のある素材として紹介されることも増えてきました。
一方、イギリスのスーパーやチョコレートショップでは、「Hazelnut Chocolate」「Hazelnut Filling」「Praline」といった表記のほうが目に入りやすく、「ジャンドゥーヤだから買う」というよりは、「ヘーゼルナッツの香ばしいチョコレートだから好き」という感覚で親しまれていることも多いようです。
名前よりも味わいを楽しむ。
そんな少し肩の力の抜けた向き合い方も、イギリスらしいお菓子との付き合い方なのかもしれません。





舌の上でゆっくりとほどける滑らかさを楽しみたいなら、ジャンドゥーヤ。
香ばしさや食感をアクセントとして味わいたいなら、プラリネ。
どちらが優れているという話ではなく、その日の気分や過ごし方によって選びたくなる、そんな存在なのかもしれません。