モロッコのインテリア(モロッカンスタイル)と聞くと、鮮やかな色彩やエキゾチックな雑貨を思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかし、その本質は見た目の華やかさだけではありません。北アフリカの先住民族であるベルベル(アマジグ)の手仕事、イスラム美術に見られる幾何学模様、そしてフランスを通じてもたらされた洗練されたデザイン感覚が重なり合い、独自の美意識が育まれてきました。
床に近いスタイルでくつろぎ、ミントティーを囲みながら会話を楽しむモロッコの暮らしには、日本の「和の暮らし」とも通じる、穏やかな心地よさがあります。
今回は、部屋に取り入れるだけでモロッコの温かな空気を感じられる、伝統的なインテリアアイテムを5つ紹介します。
床に座るくつろぎを豊かにする「プフ(Pouf)」
モロッコでは、床に近いスタイルでくつろぐ家庭も多く、来客をもてなすサロンでは、家族や友人がプフに腰掛けながらミントティーを囲む光景が見られます。
そのためプフは、単なるクッションではなく、人が集まり、くつろぎの時間を過ごすための家具として親しまれてきました。
伝統的なプフは革や布で仕立てられたものが多く、幾何学模様や植物をモチーフにした刺繍が施されています。職人による手仕事の風合いを楽しめるものから、現代のインテリアになじみやすいシンプルなデザインまで種類も豊富です。
欧米のインテリアで愛されるようになった背景
実はプフが世界中で人気になった背景には、フランスとの歴史的なつながりがあります。
モロッコの色彩や職人による手仕事は、多くの芸術家やデザイナーを魅了しました。その後のボヘミアン(Boho)スタイルの流行や、天然素材や一点ものを大切にするインテリアの広がりも、人気を後押ししました。
現在では、北欧インテリアやナチュラルテイストの空間にも自然になじんでいます。
座面として使うだけでなく、足を乗せるフットスツールや、トレイを置いてサイドテーブル代わりに使うなど、多目的に活躍するのも魅力です。
日本ではソファの代わりというよりも、リビングのアクセントとしてオットマンやサイドテーブル感覚で取り入れると、モロッカンスタイルらしい温かみのある空間を演出できます。
職人の手仕事が足元を包む「バブーシュ(Babouche)」
バブーシュは、モロッコの旧市街(メディナ)の革工房でも見られる伝統工芸のひとつです。
羊革や山羊革を使ったものが多く、職人が一足ずつ手作業で仕上げています。
日本ではルームシューズとして人気ですが、本来は靴を脱いで過ごすモロッコの住まいの中で履かれてきた、日常生活のための実用品です。
柔らかな革が足になじみやすく、履き心地の良さも魅力のひとつです。
伝統的なバブーシュは、先端が少し尖った独特のフォルムと、鮮やかな色彩や繊細な刺繍が特徴です。
この特徴的なつま先の形には諸説あり、家やモスクで靴を脱ぎ履きしやすくするためという実用的な理由のほか、イスラム建築に見られるアーチのデザインを思わせる形になったという説もあります。
近年では、幾何学模様やメタリックカラーを取り入れたモダンなデザインも増えており、玄関やベッドサイドに置くだけでも、モロッコの手仕事を感じられるアクセントになります。
幻想的な光と影を映し出す「モロッカンランプ」
モロッコのランプは、細かな透かし模様から漏れる光が、壁や天井に幻想的な影を映し出すのが特徴です。
イスラム建築にも見られる幾何学模様の美しさを、暮らしの中で楽しめるインテリアとして親しまれています。
モロッコの伝統家屋「リヤド」やホテル、レストランなどでも使われ、夜になると柔らかな灯りが空間を包み込みます。
素材には真鍮や銅、アイアン、色ガラスなどが使われ、職人による透かし彫りや金属細工によって、一つひとつ異なる表情に仕上げられています。
照明を灯していない昼間でも、インテリアのアクセントとして存在感があります。
トルコや中東にも似たデザインのランプが見られますが、これはイスラム文化圏で幾何学模様や透かし細工が建築や工芸に広く取り入れられてきたためです。
地域によって素材や模様、フォルムに個性があるため、見比べてみるのも楽しみのひとつです。
空間の印象を変える「幾何学模様のラグ・カーテン」
モロッカンスタイルを特徴づけるもののひとつが、ファブリックに使われる幾何学模様です。
イスラム美術では、宗教的な背景から人物や動物の表現を控える傾向があり、その代わりに規則的な幾何学模様や植物文様が発達してきました。
繰り返される模様には「永遠」や「調和」を表現する意味が込められているともいわれ、見た目の美しさだけでなく、イスラム文化ならではの美意識を感じられます。
モロッコのラグには、ウールやコットンなど天然素材が使われることが多く、手織りならではの温かみや、一枚ごとに異なる風合いも魅力です。
昼夜の寒暖差が大きい地域では、厚手のラグは床からの冷えを和らげる実用品としても使われてきました。
また、厚手のカーテンは強い日差しをやわらげ、透け感のある生地は柔らかな光を室内に取り込みます。
素材や光の重なりを楽しむことで、落ち着きのあるモロッカンスタイルを作ることができます。
食卓に彩りを添える「モロッコのテーブルウェア」
モロッコでは、真鍮のティーポットやトレイ、美しく彩られた陶器が、おもてなしの席を彩る大切な道具として親しまれています。
モロッコの食器文化は、ベルベル(アマジグ)の伝統に加え、アラブ文化やスペイン・アンダルシア地方の影響を受けながら発展してきました。
そのため、コバルトブルーやターコイズ、イエローなどの鮮やかな色彩にはスペイン南部の陶器を思わせる雰囲気があり、真鍮のティーポットやトレイには中東やトルコの工芸品にも通じる存在感があります。
代表的なアイテムには、タジン鍋、プレート、ボウル、ティーグラスなどがあります。
食器一式を揃えなくても、ティーグラスやプレートをひとつ取り入れるだけで、いつもの食卓にモロッコらしい彩りを加えることができます。
モロッコでは、客人を迎えるとまずミントティーをふるまうのが伝統的なおもてなしです。
何度もお茶を注ぎ足しながら会話を楽しむ時間は、人とのつながりを大切にする文化を象徴しています。
日本にも、お客様にお茶や季節のお菓子を用意し、お気に入りの器でもてなす文化があります。
使う道具や作法、文化の表現方法は違っても、「大切な人と穏やかな時間を分かち合いたい」という思いは共通しています。
だからこそ、モロッコのインテリアには見た目の華やかさだけでなく、どこか懐かしく、ほっとする温かさが感じられるのかもしれません。









